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「……そうか…。
お前がそこまで言うのであれば、俺はこれ以上は何も言わない。
幸せになれよ…、お市…。」
「…あぁ…、お兄様…。
はいっ、お市は幸せになります……。
……お兄様…、長い間…お世話になりました…。」
「……あぁ…。」
「……市は…市は……、本当に……。」
「みなまで言うな…。
兄は分かっている。
家族の者には、俺から言っておこう。」
「…ありがとうございます……。
父上様…、母上様…、おじじ様…、おばば様…には、くれぐれもお達者でお暮らしくださいと、お伝えください…。
吉秀(よしひで)には、お市はいつも吉秀(よしひで)のことを想っていると、お伝えください。
そして、猫のシンゴロウの世話をよろしくお願いします…。」
「分かった。
その旨(むね)、俺から伝えておこう。
それにしても、アイツの元へはどうやって行くつもりなのだ?
なぜならば、アイツはひ……。」
「それならば、ご安心ください。
庭の方に、コツコツと造っておいた物がございますので。」
バサッ
「いつの間に、こんな物を…!?」
「はいっ、人知れず造っておりました…。
それは、あの方の元へ行きたいという一心から。」
「…そうか……、お前はそこまでアイツのことを想っていたのだな…。
もう、俺から言えることは一つだけだ。
幸せになれよ、お市。」
「はいっ。」
「このように決まってしまった以上、急がなければならないな。
もうすぐ、家族の者達が起き出す頃だろう。
そうなってしまうと、お前としても行きづらくなってしまうと思う。
だから、その前に出発するのだ。
アイツの元へと。」
「…はい……。」
「出発の準備は俺も手伝おう。
どうしたらいいのだ?」
「何から何まで、本当にありがとうございます。
では、お兄様のそのお言葉に甘えさせて頂きます。
私が、『押して』と言いましたら、そちらの青いボタンを押して頂けるだけで大丈夫でございます。」
「あっ、そうなのか…。
見た目の派手さとは裏腹に、意外とシンプルな造りになっているのだな。」
「私一人で造った物ですから、この程度の物となってしまいました。
………。
…お兄様……、これが本当に最後の挨拶でございます。
市は、誰にも負けない位に幸せになります。
…今まで……、本当に……ありがとうございました…。
では、お兄様、ボタンを押してください。」
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