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駅につくと、仕事に向かう人々でごった返していた。
伊織は入場券を買うと、徹志の後に続き、改札をくぐった。
改札を過ぎてすぐに、大きなキャリーを引く女の子と徹志がぶつかり、徹志は切符を床に落とした。
「あ、す、すいません…。」
女の子は即座に誤り、切符を拾い徹志に渡し、そそくさと去っていった。
その時、徹志の顔を見てハッとした顔をしたが、即座に顔を伏せた為、徹志は気付いていなかった。
「今の子…知り合い?」
伊織が徹志に聞いた。
「え?知らない子だけど…何で?」
徹志は全く知らないといった風に伊織に言った。実際知らないのだから、当たり前だ。
「ううん。私の気のせいみたい」
伊織は女の子が一瞬見せた表情を見逃していなかった。
徹志は変なこと言うなぁ。
と、思いながらホームにむかって歩き出した。
伊織は、何か胸に引っ掛かるモノが出来たが、気のせいと言い聞かせ、徹志の後を追いホームに向かった。
既に待機している寝台列車のホームにて、徹志は笑顔で伊織に話しかけていた。
「じゃあ、行ってくるな!オレのいない間に浮気すんじゃねーぞ?」
徹志は、意地悪に笑い伊織に言った。
「そんなのしないよ!心配なのはてっちゃんだよ。旅先で可愛い子とかにあって…。」
伊織が言いかけたそれを徹志はキスで遮った。
………
そっと口を離し、徹志は真面目な顔で伊織に言った。
「俺は伊織しか愛さないよ。浮気なんか絶対にしない。…ここに誓うよ。毎日連絡だってするし、何も心配いらないよ。」
伊織は嬉しさと寂しさで涙を流して頷いた。
『……く、函館行き~北斗星57号が発車いたします~。ご乗車漏れの無いよう………』
アナウンスと共に、発車音が鳴り響いた。
徹志は伊織の頭を数回ポンポンしてニッコリ笑って列車に乗り込んだ。
ドアが閉まり、動き出す列車。
徹志は、着いたら電話するよというジェスチャーをして、伊織に笑いかけた。
伊織はコクリと頷き、列車の影が見えなくなるまで笑顔で見送った。
心に何か引っ掛かりを残しながら。
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