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いっそう濃くなった宵闇に隠されているものの、角がある気がしたのは私の見誤りで、彼は甲冑(かっちゅう)を着ているだけだとわかりました。息苦しい圧迫を感じさせるのも、この立派な甲冑ごと私に覆いかぶさっているせいです。左右の草摺(くさずり)からすらりと足が伸び、眉庇(まびさし)と鍬形(くわがた)におさまった顔は小さく、夜の中空にいつしか灯った弓張り月の灯篭(とうろう)が、彼の凛々しい眉と高い鼻梁(びりょう)の輪郭を浮かび上がらせています。伏目がちにした目元は翳(かげ)って判別出来ないのが悔しくて、
「鍵を開けたのはあやまちだった」
そう思いそうになった矢先、咆哮(ほうこう)をあげた彼が片手で私の両腕をねじ上げたまま、もう片手でブラウスを引き裂きました。そして人差し指を私の肌にさし込み、力任せに皮膚のホックをはずしたのです。胸からへそまで一直線に弾けたような音が響きます。微動だにできない私の中を彼は覗き込むと、脈打つ肉の奥めがけてまさぐり始めました。呼吸が警告音を発し、私の奥歯が砕けます。けれども彼はやめないどころか、私を形成する主要な器官をかき分けてしこりをひとつ掴みほぐし、そうして戻った血の流れをたどって、まだ誰も見抜いたことのない私の球根のありかを察知しました。彼は亡者の獰猛(どうもう)な嗅覚だけで何もかもを透過し、私が埋もれさせた根をまっすぐに指したのです。
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