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「ねぇパパ起きて!」
まだ日曜の朝七時だと云うのに、小学校四年生になる息子の志朗に起こされた。
志朗は今日の午後からリトルリーグに行く事になっているので、はりきってこんな時間に目が覚めてしまったのだろう。
三日前、301号室に住む河合さん家の小学校六年生になる秀晃君が誘ってくれたのだそうだ。
秀晃君はそのチームのレギュラーで、志朗も前から憧れていたのだと嬉しそうに話して聞かせてくれた。
女房の員子はと云うと、昨日の晩は『朝から弁当を作るわねー』なんて張り切っていたわりに息子の強襲にも気付かず、隣のベッドでまだ寝ている。
そう言えば僕も小学校の時に入っていた。
昨日の晩『当時俺は光速球の一雄って呼ばれていたんだぞ』なんて話をしたものだから、結局夜中一時過ぎまで付き合わされた。
本当は補欠だった、あれは冗談……
そう言い出せないまま、今朝からキャッチボールに付き合う約束をしてしまったのだ。
幸い、僕用のグローブは少々カビ臭いが古いのがある。
志朗用の物は、一昨日、妻が一緒に買いに行ってきた。
あいつから聞いた話だと、志朗は家に帰ってすぐに袋から取り出すと、テレビもそっちのけで夢中になって眺めたり磨いたりしていたらしい。
なるほど、だから俺が帰宅しても、『おかえりなさい』の一言もなかったわけだ。
そのくせ暫らくして自慢げに見せびらかしに来て、僕の食事の邪魔をする。
その表情と、あの日の僕とが記憶の中でダブった。
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