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―こりゃ基本から教えにゃならんな―
最近の小学校は野球もやらないのか……
僕は志朗に近付こうと右手からグローブを外した。
「パパ、待って!もう一回そこから投げて!」
志朗はいつになく真剣な眼差しで僕を睨みつけた。
こんな真剣な目を見るのは初めてだ。
「よし!今度は取れよ」
僕は足元に転がっていたボールを拾うと、さっきより強めに投げ返した。
志朗も今度は無理に目で追うことをせず、体の中央でグローブをしっかり構える。
グローブはスパンといい音を立てて、ど真ん中にボールを吸い込んだ。
志朗はきょとんとしている。
僕はその場にグローブを投げ捨てると、志朗の下へ駆け寄り、強く抱きしめた。
「パパ、やめてよー」
さすがに小学四年にもなると恥ずかしいのか、僕の腕の中から逃げ出そうと必死にもがいている。
僕は再び元の位置に戻ると、グローブを嵌めてパンパンと叩いてみせた。
「投げてみろ」
志朗は照れ臭そうに『うん』と頷くと、今度はさっきより力を抜いてボールを真っ直ぐに返した。
山なりの球が僕の頭上から降ってくる。
―こいつ、案外スジがいいぞ―
僕は頭の上にグローブを構え、しっかりとボールをキャッチした。
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