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――これは硬式用のグローブ――  違いなんて普通の人が見て一発で判るような代物ではない。  実家から持ってはきたものの、今のマンションに移ってから今日まで、日の目を見る事はなかった。  どことなくグローブもこの日を見ることができて喜んでいるようにも見える。  僕は軟式の慣れない球を、人差し指と中指で挟み、ちょっと投げる真似をしてみた。 「パパ、今のどうやったの?」  いつの間にかこっちを向いて志朗は珍しいものでも見るかのように目を輝かせている。  なんだか一瞬、過去の自分を見られたようで、慌てて軟式の球をグローブに隠した。 「そのうちな」  僕はそう言うと、志朗の肩をぽんと叩いて、帰路を()かせた。  そろそろ寝ぼすけな女房も起きて待っているはずだ。  志朗は『うん』と返事をすると、僕を置いて走って行ってしまった。  その背中を目で追う。  さすがに回復力で小学生に敵うわけもなく、僕は志朗の後をとぼとぼと歩いて行った。
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