1人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
2
マンションの裏口から出ると、ほんの10分ほどで拓未川公園に着く。
急ぐ気のない僕と、待ち切れない志朗と比べればどちらが先に駆け着くか。
「パパ遅いよ!」
一足先に着いた志朗は少し怒ったような口調でグローブの内側をパンパンと叩いてみせた。
なんだかここも懐かしい。
実家は川を隔てて目と鼻の先にある。
今の住まいは、歳を取った母の面倒を看るのに都合がいいので選んだ場所だ。
だからこの公園も子供の頃からよく知っている。
もっとも今とだいぶ様子が違う。
当時はまだ高いフェンスなんかなかったし、ブランコやら滑り台やらジャングルジムやら遊具がいっぱいあった。
それが今では遊具の代わりに中央に大きな通路が横たわり、花壇には四季折々の花が咲き誇っている。
子供たちよりも散歩がてらの老人が多いのも頷ける。
子供たちはフェンスの中へ……
そんな檻のようなフェンスを潜り中に入ると、志朗が不満そうに待っていた。
実は志朗がまだ小学校に入学したばかりの頃、一度だけキャッチボールをやらないかと誘った事がある。
その時は新しくできた友達の家に遊びに行くとかで、しっかり拒否された。今日は僕もなんだか嬉しい。
「よーし、いくぞー」
志朗の年齢の事も考えて、少し山なりに投げてみる。
左手に嵌めたグローブを右手で支え、志朗は懸命になって目で球を追い、そして目の前でボールはぽとりと落ちた。
「ドンマイ!今度はパパに投げてみろ」
慌てて拾い上げて体ごと体重を掛けるように力いっぱい投げ返す。
ボールは志朗の2、3メートル先で着地して、そのまま僕の方に転がってきた。
最初のコメントを投稿しよう!