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 それから何球かのキャッチボールを続けて行くうちに、次第に自ら習得して行く志朗の姿から、リトルリーグ時代の僕とは違う何かを感じ、らしからぬ親バカな意識が芽生えるのを感じた。  当の志朗は疲れたのか、それともいっちょ前に緊張したのか、頭にグローブを載せたまま、公園のベンチの背もたれに寄り掛かって休んでいる。  志朗の紹介されたチームには簡単な入団テストみたいなものがあるらしい。  それもあってか、志朗の方からキャッチボールを申し込まれた。  内心嬉しかったものの、ここは威厳とばかりにちょっと渋い顔を返す。  実は志朗はあまり運動が好きではないのだと思い込んでいた。  少なくとも何度か行ったことのある運動会では、本気で走っているようには到底見えない志朗の姿ばかりを見せられてきたからだ。  我が子ながら、なんとかしなきゃと思いつつ、僕にはその判断を全て妻に一任してきた敬意がある。  普段から仕事に追われてあまり接点を持とうとしていなかった僕は、こんな基本的な事すら息子を理解してやれていなかったのかと、今日の今日になって思い知らされた。  キャッチボールはやってみるもんだな。  父がなぜ僕とキャッチボールをやりたかったのか、やっと理解できた。  しげしげと自分のボロボロのグローブを眺めてみる。  ところどころ皮の捲れ上がったそれには、父の思い出と共に過去に置いてきた僕の夢が詰まっている。  そんなこと今まで家族の誰にも話していなかったし、志朗どころか妻だってよくは知らない。
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