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「ママ、おいしいよ、今日のカレー」
確かにお世辞ではなく本当に美味い。
先月の志朗の誕生日に作ったカレーより絶対に美味しい。
「愛情がこもってるからねー」
なんて言いながら、員子は笑っている。
志朗はお代わりをした二杯目を食べ終えると『夜の分も残しといてよ』と言って、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。
ふと見た女房と目が合って、二人して吹き出してしまった。
一緒に視線をそのまま志朗の部屋のドアに向ける。
『なにやってんのかねー』と云った妻の表情に、僕は『ねー』と答える意味で、首を少し傾けてみせた。
リトルリーグの集合場所である大原グラウンドまでは歩いて15分ほどだ。
まだ2時間近くある。
昼飯は家族分のおにぎりを員子が作る事になっている。
緊張している息子を余所に、親の僕らはどこかでハイキング気分だ。
員子は先日、志朗のグローブを買いに行った時、ついでに応援用のメガホンまで買ってきたらしい。
『志朗には内緒よ』と言って見せてくれた。
まだチームに入れるとは決まってもいないのに、気の早いことだ。
員子はキッチンの戸棚に隠しておいたメガホンを取り出すと、胸元辺りで握って、僕に向かい、ニコヤカに微笑んでみせた。
僕は苦笑いを返す。
その雰囲気が気になるのか、ドアがガチャリと開き、志朗がヒョッコリと顔だけ突き出した。
慌てて員子はメガホンを後ろ手に隠す。
志朗の視線は僕の視線とピッタリ合致した。
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