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僕は昨日、彼女を失った。
いや、死んだのではない。生き別れ――回りくどい話だが、つまり別れたのだ。
僕からその話しを切り出し、彼女を、半ば無理矢理突き放した。しかし彼女も彼女で抵抗する事もせず、想像していたより遙かにスムーズに、且つ淡白に、事は済んだ。
僕がどんな人間なのか、僕の小さな癖さえも知っている人。そんな人だから…僕の一時の我が儘に、彼女は折れてくれたのだろう。
――引き止めて欲しかった。
引き止めたかった。
僕は、僕が嫌いで、
彼女が好きだった。
今更戻れないだろ。
(――いや、昨日の今日ならば……。)
彼女も、もう諦めてくれただろ。
(――いや、もしかしたら……。)
「ごめん、ごめんな」
僕は、君を死んだ事にした。
君への届かぬ手紙を、君が眠る、花いっぱいの柩に添えて。
冷たくなった君の唇に、今一度、いつかの様な口付けをして。
蓋を閉めて……暖かな土を、静かに被せて。
きっと今頃、君も僕の躰を埋めているのだろう。
ひょっとしたら、こんなに綺麗な埋葬じゃないかもしれないけれど、それでもいい。
――僕も、一緒に死のう。
君の為なら、何も怖くは無いのだから。
僕は、静かに瞳を閉じた。
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