序章(切り取られた欠片)

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途切れた時間、失われた記憶の欠片、過去… 幼き日の俺は朦朧とした意識の中で、少女の涙を眺めていた… 偶然出会った名も知らないその少女に…俺は、一目で心を奪われてしまった。 唐突に訪れる少女の危機。 猛スピードで暴走する大型トラック、少女を救うために俺の選べる選択肢は… 命を懸けて彼女の身代わりになる道だけだった。 結果、俺は指先ひとつ動かせず人形のように横たわる… 身体に痛みを感じることはなかったが、それ以外の何かも感じる事は出来なかった。 この時、俺は死を覚悟した… つまりは、俺はここで終わってしまうんだ… 別に構わないか… 誰かを守って死ねるのなら… ここで、彼女の命を救うために俺が今日まで存在していたというならば… 俺の死は無駄ではない… 俺は、彼女の命を…救う事が出来たのだから…… 目を閉じようとしたその瞬間、誰かが俺の名を呼ぶ… 声が聞こえた… 雑音ひとつ聞こえてこない静けさの中で、彼女の声だけは鮮明に聞き取る事が出来た。 それが彼女の泣き声だと気付いたのは、それからすぐの事だった。 俺の頬を何かが濡らす。 ………………雨…… 最後の気力を振り絞り、開いた視界のその中に…彼女の泣き顔を目にした… その泣き声を……… その泣き顔を…… その涙を…… 俺は見つめ続けていた… 力が入らずに全身が動かない。 麻痺していて体に痛みを感じない状態なのに… 体の奥に、確かな痛みを感じていた… 肉体ではなく、精神の痛み。 重く、抉るような… …それは…… ………俺の… ………心の痛みだった… .
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