序章(切り取られた欠片)

2/2
380人が本棚に入れています
本棚に追加
/477ページ
途切れた時間、失われた記憶の欠片、過去… 幼き日の俺は朦朧とした意識の中で、少女の涙を眺めていた… 偶然出会った名も知らないその少女に…俺は、一目で心を奪われてしまった。 唐突に訪れる少女の危機。 猛スピードで暴走する大型トラック、少女を救うために俺の選べる選択肢は… 命を懸けて彼女の身代わりになる道だけだった。 結果、俺は指先ひとつ動かせず人形のように横たわる… 身体に痛みを感じることはなかったが、それ以外の何かも感じる事は出来なかった。 この時、俺は死を覚悟した… つまりは、俺はここで終わってしまうんだ… 別に構わないか… 誰かを守って死ねるのなら… ここで、彼女の命を救うために俺が今日まで存在していたというならば… 俺の死は無駄ではない… 俺は、彼女の命を…救う事が出来たのだから…… 目を閉じようとしたその瞬間、誰かが俺の名を呼ぶ… 声が聞こえた… 雑音ひとつ聞こえてこない静けさの中で、彼女の声だけは鮮明に聞き取る事が出来た。 それが彼女の泣き声だと気付いたのは、それからすぐの事だった。 俺の頬を何かが濡らす。 ………………雨…… 最後の気力を振り絞り、開いた視界のその中に…彼女の泣き顔を目にした… その泣き声を……… その泣き顔を…… その涙を…… 俺は見つめ続けていた… 力が入らずに全身が動かない。 麻痺していて体に痛みを感じない状態なのに… 体の奥に、確かな痛みを感じていた… 肉体ではなく、精神の痛み。 重く、抉るような… …それは…… ………俺の… ………心の痛みだった… .
/477ページ

最初のコメントを投稿しよう!