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ひとこと目には「仕事を探しなさいよ」という母の横顔を、僕はアイスキャンディーを口にくわえながら眺めていた。
忙しなくエプロンをつけながら、リビングを右往左往している。ふいに立ち止まり、こちらをじっと睨みつけて言う。
「ねえ、家でブラブラしていても、何も始まらないでしょ。もう二十歳なんだから、少しは自分の将来のこと、ちゃんと考えなさい」
くわえたアイスキャンディーを冷たくなった唇からゆっくりとひきぬき、少し感覚を失った唇で言葉を発する。
「がんばってるよ。だから心配しないでよ。母さん」
訝る母の顔に笑顔を向ける。アイスキャンディーを舌でぺろりといたずらに舐めると、「呆れた……」と捨てぜりふを吐き、天を見上げて両手を肩のあたりまで上げた。
「ホント、大丈夫だから」
台所に消える、母の背中にもう一度、同じ言葉をなげつけた。
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