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いつもと変わらない出勤時間前の光景。父親と死別してからだから、もう十年近くたつ。
母の出勤は十九時。あまり好きではない臭いを身にまとい、かなり好きなスーツ姿になる。胸元を少しおおげさに開き、胸元を見せる。赤いルージュにグロスをのせて、うるおいをだせば、艶っぽくなるから不思議だ。
スナックで働く母は、年齢のわりには若い。そして、父が死んでから勤めたわりには、嫌味も言わずに、楽しそうに働いている。
給料は、それほどでもないらしいが、生活はしていける。だけど、僕を見る目は、年々、厳しくなる。
「ごはん、食べよ。私、もうでてかなきゃいけないから」
皿を運んできた指には、まだ指輪はなかった。
僕は立ち上がり、箸やごはん茶碗をもってくる。
毎日のささやかな、家族ふたりの時間が、短いけど過ぎていった。
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