消えたい私と手品師

3/3
前へ
/9ページ
次へ
「手品師のおじさん」 「なあに」 今度はおじさんでも怒らない。 「私を、消してよ」 手品師はすぅっと目を細めた。 実は初めて、私の顔をちゃんと見たような様子だった。 私はポケットをあさった。 「これ、」 「ん?」 私が手品師の手に落としたのは、なけなしのお金と、一対の小さい銀色のピアス。 「これは?」 「おだい。これの代わりに、私を消して」 また手品師がすぅっと目を細めた。 よくみるとその仕草が、昔うちで飼っていた黒い犬にそっくりだった。 「よろしい」 手品師は手のなかでコインとピアスをしゃらん、と鳴らした。 「でもその前に」 寒いだろ。手品師が、私の肩に、ふわっとマントをかけてくれた。 「魂のおはなしを、しようか」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加