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手品師が「魂のおはなしをしようか」と言ったので、私は少し焦った。
「それって別料金ですか?」
すると手品師が吹き出し、いやいや、と笑った。
「これは、僕が話してみたいから話すんだよ」
だからタダだ。
手品師はそうも言った。
なんだ、ただか。ただなら、聞こうかな。
私がそう呟いた時、遠くでサイレンが聞こえた。
本当に、遠くで。
私の体はまた震える。
パパはもしかして、まだあのサイレンの下で苦しんでいるのではないか。
ゆっくり、手品師が私の体を包みこむ。
私は手品師の膝の間に入るような形で、その確かな温もりにつつまれていた。
「安心おし…。これから、私のはなしを聞くのです。」
急に厳かになった手品師の声が、頭のうえから降ってきた。
いつの間にか体の震えは止まっていた。
私は、静かな気持ちで次を待つ。
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