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母親がいない私は不幸なのか。
幾度となく私は悩んだ。
答えを不幸と出していたなら今の私はいないであろう。それを言い訳に落ちこぼれ、人間の屑になっていたに違いあるまい。
ではなぜ私は不幸ではないと思ったか、それはひと夏のカニさんのお陰である。
ある日私はカニを見つけて、捕まえて、放り投げて、殺した。空高く舞ったカニさんはそのままコンクリートの道路に叩きつけられて死んでしまった。
またカニがいないかなぁと思った私は溝を探した。すると二匹の小さなカニを見つけた。もしかしたらさっき私が自分の快楽の為に殺したカニはこの子カニ達の母親だったのかもすれない、そんな些細な後悔が私を襲った。この子カニ達はこれからどうやって生きて行くのだろう、餌はあるのだろうか、とにかく心配だった。そうか、私はこれまで自分はなんて惨めで不幸な人生を歩んでいるのかと嘆いていたが、世の中には私なんかよりももっと不幸な可愛いそうな人生を送るものが大勢いるのではないか。それなのにただ、母親がいないということに甘んじて愚劣しようとしていた私はなんたる阿呆で間抜けな甘ったれだ。
私は二匹の子カニを捕まえ、放り投げ、殺した。
「元気でな、ありがとう」
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