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男子生徒の一人が、りゅうの胸ぐらを掴む。
「一年が調子に乗んなよっ!」
そう言って殴ろうとしたその手を、麗が止めた。
「いい。……話があるんだろ、案内してくれ」
「……こっちです」
そう言って歩き出す二人。
歩き出しながらの「手を出すな」という麗の無言の脅し。りゅうを殴ろうとした男子生徒他、殺気を出していた生徒も黙り込んだ。
話をするために、人気のない場所まで歩く。
先頭を行くのはりゅう。その次に麗、最後に間を開けて俺の順だ。どんどん前へ進んでいくりゅうに対し、麗はゆっくり歩く。時々、俺の方をちらちら見るのは、何か意味があるのだろうか。
やってきたのは図書室。ここなら、朝はそんなに人が来ないし、邪魔もされないだろう。
りゅうが止まると、麗と俺も止まる。麗は棚際に移動し、りゅうは俺の傍に来た。
「話って、何?」
麗が尋ねる。俺が答えるより早く、りゅうが頭を下げた。
「天城先輩。顔、殴ってすみませんでした」
りゅうが頭を下げて謝ったことに驚く麗。俺も、りゅうがこんなにすんなり頭を下げたことに驚いた。けれど、それよりも気になったのは、ちらりと見えた、りゅうの強い意志のこもった目だった。
りゅうは、三十秒ほど経ってから頭を上げた。
「謝りはしましたが、顔を殴ったことに、後悔はしていないので」
「……」
「……今度先輩を泣かせたら、病院送りにしてやりますから。覚悟して下さい」
それだけ言うと、りゅうは俺の手を引いて図書室から出ようとした。
「っ、大谷!」
後ろから聞こえたのは、麗の声。俺は立ち止まって振り返る。りゅうは「まだ何かあるのか」と言いたげな顔で麗を見た。
「何?……天城君」
付き合ってもいないのだから、もう麗の事を下の名前では呼べない。もう呼ばない。そう決めたのだ。
俺が天城君と呼ぶと、りゅうは目を見開き、麗に至ってはショックを受けたような表情になった。
その時ちょうどよくチャイムが鳴ってしまったので、三人とも急いで教室に戻る。
俺は、何故麗があんな顔をしたのかが、全く分からなかった。
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