笑顔で

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 俺は制服を直し、少し大袈裟に咳払いをした。 「あのね、りゅう。りゅうが心配していることも分かる。俺も、それは考えた。でも、行こうとは思ってるよ」 「……」  黙って聞いてくれるりゅうではあるが、下唇をぎゅっと噛みしめているその姿は、納得していないようだ。  俺はりゅうの頭を撫でながら言った。 「俺ね、麗とちゃんと終わらせたいんだ」  そう、俺達はちゃんとした別れをしていないのだ。  あの日、俺は麗にさよならと言ったが、麗は言っていない。そのあとはりゅうの殴りこみもあって、うやむやになってしまった。 「殴られて謝って『はい終わり』じゃなくて、話しあって、言いたいこと言い合って、別れたいなって思った。いつまでも、りゅうに迷惑かけるわけにはいかないもんな」 「……先輩、僕も一緒は、駄目ですか?」  聞くと思った。 「ごめん。今回は本当に二人で話し合いたいんだ」  はっきり断ると、りゅうはしゅんとしてしまった。俺は苦笑した。 「……一応、話し合いの場所はこっちから指定しようと思ってるんだけど。いい場所あるかなぁ」  少しわざとらしく言うと、先程の表情から一変し、キラキラした目で俺を見るりゅう。 「あ、あの、『clover』なら!人がそんなに来ませんし、邪魔にならないかと!!」  こらこら。仮にも働いているところなのに、お客が来ないとか言わないの。 「……見てられる?」 「はい!なんなら、凪瀬さんと来栖さんに僕の監視を頼んで下さい」  なるほど。あの二人に頼めば、りゅうも大人しくしてくれる。……かもしれない。 「じゃあ、約束だよ。来てもいいけど、陰で見ていること」  俺が言うと、りゅうは元気よく返事をし、指切りをした。
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