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開店をしてすぐなので、麗はまだ来そうにない。来るまでの間、俺はコーヒーを頼んで飲んでいた。
一杯目のコーヒーを飲み終え、二杯目を頼んだ頃、カランとCloverのドアが開いた。入ってきたのは、麗だった。
麗はしばらく店内を見渡し、俺を見つけると目の前の席に座った。その顔にいつもの明るさは無く、やはりどこか元気が無かった。
麗は「とりあえず」と言って紅茶を頼む。しばらくしてから紅茶を持ってきた凪瀬さんは、麗に見えないよう、口パクで「彼氏?」と聞いた。俺は小さく頷いた。
凪瀬さんがカウンターに戻っていくのを見送り、麗が紅茶を飲むのをじっと見ていた。
一口、二口位紅茶を飲んでカップを置く麗。いよいよかと思い、麗の言葉を待った。
麗は、なかなか言葉を口にしない。カウンターの方では、仕事をしながらも俺達の事をちらちらと見てくる来栖さん達と下の方から覗きこんでいるりゅう。皆が今か今かと待っていると、麗は誰も予想しなかった言葉を口にした。
「……俺、本命の人に振られたんだ」
「……へ?」
(はぁ?)
(ええ?)
(ぷっ)
麗の言葉に反応する俺達。上から、俺、来栖さん、凪瀬さん、りゅうの順だ。というか、りゅう。そんなあからさまに笑わないで欲しい。声に出さずに大爆笑とは、りゅうも器用なことする。
麗は、そんな三人には気づいていないようで、話を続けた。
「その人は俺の先輩で、優しくて、最初はいつもみたいに遊びのつもりだったのが、いつの間にか俺の方が本気になってた。……今度の秋に結婚するって、謹慎中に聞いた。あの人に本命の彼氏がいたことにも気付かなかった俺も俺だけど、あっちも俺とは遊びだったって聞いた時は、すごくショックだったな。何人も遊んでいた俺がだぜ?」
自嘲気味に麗が笑う。俺はいったい、どういう顔をすればいいのかが分からなかった。まさか、今日呼び出したのはそれを愚痴りに。というわけでもなさそうだし。
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