笑顔で

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 たったそれだけの短い言葉ではあったが妙に満足した俺は、小さく笑みを浮かべて麗に言った。 「そう、それだけ聞ければよかった。もう、この件は終わりにしよう。俺と麗はここで正式に別れた。これからはどちらにも干渉しないってことでいいでしょ」 「お、大谷……!」  何かを言いかけた麗の言葉を遮るように、俺は言葉を発した。 「で、俺から最後のお願い。さっき女の子は遊びって分かってるって言ってたけど、中には俺みたいに本気な子もいると思うからさ。気をつけてあげてよ」  なんて、俺に言われる筋合いは無いかもしれない。というか、そんな約束、守らないと言われるかも知れなかったけど、それだけは言っておきたかった。  麗は目を見開いて驚いたけど、すぐにいつもの表情に戻る。麗から「ありがとう」と「ごめん」という言葉を貰いながら、麗がCloverを出ていくまで、俺は今できる最高の笑顔で見送った。 「……先輩」  麗が出て行ったのを確認し、カウンターから出てきたりゅうが後ろにいた。振り返ると、そこには俯いたりゅうがいた。 「先輩は優しいですよね。というより、甘いですよ」 「……どれくらい?」 俺のくだらない質問に、りゅうはさっと答えた。 「そりゃあ、ホットケーキの上にプリン乗せて、その上にバニラアイスのチョコレートソースがけを乗せて生クリームでコーティングした後、キャラメルソースをたっぷりかけた。それくらい甘いです」 りゅうの例えは、いつも甘いものを使う。いつもは分かりにくい例えでも、今回は大変分かりやすいものだった。 俺はクスクスと笑った。 「なるほど。確かに甘すぎるね」 「そうですよ。あんなやつ、殴って黙らせとけばよかったのに」  結構物騒な事を平気で言うりゅう。俺は冗談のつもりで聞いてみた。 「じゃあ、思いっきり殴っとけばよかった?」  今度の質問に、りゅうはふてくされたような表情になった。 「……いえ、殴らない方が先輩らしくて。僕はそっちの方が好きですよ」  りゅうはそう言って笑い、俺もつられるように笑った。
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