りゅうという人

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 我が家の朝は忙しい。  俺が家族の分の弁当を詰め、母さんは朝食を作る。父さんと姉さんは、朝に弱い為ギリギリまで起きてこないので、二人揃って慌てて準備をするのだ。  バタバタしている二人を横目に、俺は二人分の弁当を持って、真っ先に家を出た。今日は俺が日直なのだ。  学校に着き、日誌を取りに行っていると、まだ誰もきていないはずの教室から、微かに話し声が聞こえた。  覗かなくても分かる。この声は麗、そして相手は女子生徒。今頃キスでもしているのだろうか。それとも甘い言葉をかけているのだろうか。どちらも、俺が欲しかったものだ。 「……」  気づかれないようにその場を立ち去り、このことを無理やり忘れようと、日直の仕事に集中していた。  昼休み。俺は弁当を持って一年D組のクラスに来ていた。  遠目からでも分かる、綺麗な銀髪。俺が声をかける前に、向こうが俺に気づいた。 「あ、先輩!どうしたんですか?」 「はい。これ約束のプリンとお弁当。美味しくなかったら、ごめん」  と、一応言ってみたけれど、りゅうの視線は完全に弁当にいっていた。 「じゃ、俺戻るね」  自分の教室に戻ろうとした時、俺の腕をがっちり掴まれた。掴んだのはりゅうだ。 「何言ってるんですか。先輩、一緒に食べましょうよ」 「え、でも」 「もしかして、誰かと食べる約束してます?」 「いや、してないけど……」 「じゃあ好都合です。屋上へれっつごーです」  口調はやる気が無さそうなのに、俺の腕をぐいぐいと引っ張る力は強い。俺は引きずられながら、屋上へと連行された。
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