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「僕の家族、味覚がおかしいんですよ。もう異常なくらい極端なんですよ」
……それは、りゅうも含めて何だろうか?
「お母さんはしょっぱいものが大好きで、とろろとか漬けとか、醤油で真っ黒になるくらい味付けをするでしょう。お父さんは辛いものが大好きで、七味唐辛子を一瓶使い切るんですよ。僕は甘いものが好きだし。それで毎日喧嘩ですよ喧嘩」
え、身体に悪そう。ていうか極端すぎて怖い。
「それなのにまだ敵がいましてね。従兄のお兄さんが近所に住んでいて、よく家にも来るんですけど、悪戯好きで……。家に来るたび、わざと酸っぱいものばっかり作って」
何その味のバトルロワイヤル。俺は少しだけ鳥肌が立っていた。
「だから、一人暮らししてるんです。でも、食事はちゃんと自分で作らないと……。またあの料理は嫌だ~!!」
珍しく、りゅうが涙目で絶叫する。それほど家庭の味が嫌なのだろうか。
ま、そうだろうな。
「……だから、先輩の味が好きなんです。優しくてあったかくて、すごく美味しいんです。これが俺にとっての『家庭の味』なんです」
「でも、まだ二回しか作ってないし。それに、多分りゅうより美味しくないと思うし」
「そんなことないですよ。先輩の料理を食べれることが、幸せなんです」
ふわりと笑うりゅう。その表情に、俺はドキリとした。
でも、同時にズキリと胸が痛くなった。
似ているのだ。りゅうの表情が、麗が見せてくれた表情と。
勿論、顔が似ているわけではない。どちらかといえば、二人は正反対の顔立ちだ。けれど、雰囲気がそっくりで。たまに二人の顔がダブってしまう。
「……先輩?」
「あ、ごめんね」
顔は出来るだけ笑って、返答をしてみるけれど、今の俺はちゃんと笑えているのかな?
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