りゅうという人

9/16
前へ
/115ページ
次へ
「僕の家族、味覚がおかしいんですよ。もう異常なくらい極端なんですよ」  ……それは、りゅうも含めて何だろうか? 「お母さんはしょっぱいものが大好きで、とろろとか漬けとか、醤油で真っ黒になるくらい味付けをするでしょう。お父さんは辛いものが大好きで、七味唐辛子を一瓶使い切るんですよ。僕は甘いものが好きだし。それで毎日喧嘩ですよ喧嘩」  え、身体に悪そう。ていうか極端すぎて怖い。 「それなのにまだ敵がいましてね。従兄のお兄さんが近所に住んでいて、よく家にも来るんですけど、悪戯好きで……。家に来るたび、わざと酸っぱいものばっかり作って」  何その味のバトルロワイヤル。俺は少しだけ鳥肌が立っていた。 「だから、一人暮らししてるんです。でも、食事はちゃんと自分で作らないと……。またあの料理は嫌だ~!!」  珍しく、りゅうが涙目で絶叫する。それほど家庭の味が嫌なのだろうか。  ま、そうだろうな。 「……だから、先輩の味が好きなんです。優しくてあったかくて、すごく美味しいんです。これが俺にとっての『家庭の味』なんです」 「でも、まだ二回しか作ってないし。それに、多分りゅうより美味しくないと思うし」 「そんなことないですよ。先輩の料理を食べれることが、幸せなんです」  ふわりと笑うりゅう。その表情に、俺はドキリとした。  でも、同時にズキリと胸が痛くなった。  似ているのだ。りゅうの表情が、麗が見せてくれた表情と。  勿論、顔が似ているわけではない。どちらかといえば、二人は正反対の顔立ちだ。けれど、雰囲気がそっくりで。たまに二人の顔がダブってしまう。 「……先輩?」 「あ、ごめんね」  顔は出来るだけ笑って、返答をしてみるけれど、今の俺はちゃんと笑えているのかな?
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1628人が本棚に入れています
本棚に追加