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りゅうは「先輩」と言いかけたが、タイミング良く予鈴が鳴った。
「……もう行くね」
手早く弁当箱を仕舞い、教室へ戻ろうとする俺の手を、りゅうが掴んだ。
「りゅう。俺日直だから」
「嫌です。先輩の顔、何かあったように見えます。僕に教えてくれませんか?」
何もない。といえば嘘になる。でも、りゅうには言えない。
「ごめん。ほんと、ごめん」
俺はそれだけ呟き、乱暴にりゅうを振り払い、教室へと逃げた。
りゅうが俺を呼ぶ声が聞こえたが、それを聞こえないふりをした。
午後の授業は、全然集中出来なかった。先生には度々注意を受け、当てられれば答えを間違える始末だ。
今は放課後。ため息を吐きつつ、日誌を書いているところだ。
「大谷ー。お前に客」
まだ教室に残っていたクラスメイトが、俺に声をかけた。
「誰?」
「知らん。なんか白い一年」
白い一年。それだけを聞けば十分だった。
俺は逃げようとしたのだが、それよりも先にりゅうに見つかった。
「あー、先輩発見。ようやく見つけましたよ」
りゅうはそう言うと、俺が逃げないようにがっちりと腕を掴んだ。
「いやあ。先輩の学年は知ってたんですけど、クラスは知りませんでしたからね。見つかってよかった~。帰ってなかったんですね」
「……何か用?」
少々冷たい言い方をしてしまった。しかし、りゅうはそんなことを気にしていないようで、にっこり笑って答えた。
「はい。先輩と一緒に帰ろうと思いまして」
俺としては、今日りゅうと帰るのは気まずくて仕方がなかった。断ろうとしたのだが、りゅうが許してくれなかった。
「ね、先輩お願いします。僕もバイトに行く予定なんですよ。だから途中まで一緒に行きましょうよ」
バイトだからという理由は使えなくなってしまった。
その後、何度もりゅうが頼むので、俺はこくりと頷いてしまったのだった。
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