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りゅうは続けて味の感想を言っていた。
「なんか、あったかくて。食べてくれる人に喜んで欲しいみたいな感じがしました」
その言葉に、俺は言葉がつまった。食べてほしかったのは、ほんとは……。けど、麗は食べてないんだろうな。
「先輩?」
いつの間にか、りゅうが俺の顔を覗き込んでいた。かと思えば、差し出したのはちっちゃいチョコ。
「先輩、泣きたいときは甘いものです。あーんして下さい」
「え、いいよ。そこまでは」
「駄目です。あーんして下さい」
りゅうはここから絶対どかないつもりらしい。俺は仕方なく口を開けた。
りゅうがチョコを投げ入れると、口の中に広がる甘さ。その甘さに助けられたのか、泣きだすということはなかった。
「美味しいですか?」
「うん……」
俺が返事すると、りゅうはふわっと笑った。
「先輩、せっかく屋上にいるんですから、嫌な事は考えないようにしましょ。だって、こんなに綺麗な青空なんですよ」
りゅうに言われて空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。
確かに、ここなら嫌な事考えないですみそうだ。
「それにここ、お昼寝に絶好のポイントなんですよ。僕朝からずっと寝てました」
「朝から!?寒かったんじゃないの?」
「いえ、あそこに僕専用の寝袋ありますし。それに、朝から決めてたんです。今日は一日中寝てようって」
りゅうが指差した先には、確かに寝袋らしきもの。まさかの寝袋持参に、俺は思っていたことを聞いてみた。
「……りゅうって、変わってるとか言われない?」
「よく言われますよ。あと、『残念なイケメン』とか、『電波』って言われます。これ、ちょっと自慢です」
なんて得意げに言うもんだから、俺はまた笑ってしまった。
春先の今日、俺が知り合ったのは、ちょっと変わった後輩だった。
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