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家に帰ると、廊下に伸びているのは見慣れた細くもない腕。姉さん、酔っぱらったまま寝たのかな。
「ただいま」
小さく、本当に小さく呟いて、部屋に戻ろうとした。けれど、そんな俺の声を聞き取れたのか、姉さんはむくりと起き上った。
「あ……おかえり」
「……大丈夫?」
明らかに顔色が悪い。真っ青を通り越して、土色にまで変化していた。
「ぅぇ、気持ち悪」
「だろうね。水は飲んだの?」
俺が尋ねると、小さく首を横に振る姉さん。俺は小さくため息を吐き、コップ一杯の水を差し出す。まったく、ザルじゃないのに飲むんだから。
俺から水を受け取った姉さんは、ゆっくりと水を飲んでいく。飲み終えて一息つくと、姉さんは俺の顔を凝視した。
「……なに?」
「あんたさ、なんでそんなに疲れてんの?顔色悪いわよ」
俺より顔色が悪い姉さんに言われたくない。が、疲れているのも事実だ。
「別に。ちょっと走っただけだよ」
「走ったの?あんたが?」
俺がこくりと頷くと、姉さんは納得がいかないという顔をしていたが、それ以上は聞いてこなかった。
何故俺が走ったかというと、あの後二人の親衛隊に追いかけられたからだ。捕まったらどうなるか分からない。けれど、助けを求めることが出来ない。
残った俺の選択肢は、捕まらないように逃げることだった。
人間、死ぬ気で走れば逃げ切れるもんだ。
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