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「おい、聞いたか?」
「ん?どうした?」
人気のない寂れた酒場に、二人の傭兵の声が響く。
「また戦場に出やがったらしいぜ…あの機体が」
「あの機体?」
「お前、知らないのかよ?仕方ねえなあ、俺が教えてやる」
「…上から目線なのがムカつくけど、まあいいや。教えてくれ」
「上半身だけヘビーガードⅢ型で、足だけシュライクの機体だ」
「は?それじゃあまともに動けねえじゃねえか…」
「いや、なんでもその機体は恐ろしく強いらしい…」
傭兵たちがそこまではなしたとき、酒場の戸につけられた鈴が鳴った。
どうやら誰かが入ってきたようだ。
傭兵二人はちらりと振り返る。
酒場に入ってきた男は、背中辺りまでのばした銀色のきれいな髪を揺らしながら、薄暗い酒場のカウンターに座る。
軍服を着ているところを見ると、軍人のようである。
「…」
パチン。
男はメニューも見ずに、酒場のマスターを指ぱっちんで呼ぶ。
「…21xy年のボジョレーヌーボーをもらおうか」
「置いてないんでゲス。すいやせんね旦那。ついでに言わせてもらうとヌーボーじゃなくてヌーヴォーでゲス」
エルビスプレスリーのようなヘアスタイルをしたマスターがにやにや笑いながらそう答えると、銀髪の男は不機嫌そうな表情でマスターを睨みつけてから水を注文した。
「お待たせでゲス。水でゲス」
運ばれてきたのは大ジョッキに入った水。
「嫌がらせか?」
「指ぱっちんにイラついただけでゲス」
嫌がらせですねわかります…小声でそうつぶやいて銀髪の男は大ジョッキに入った水を一気に飲み干した。
そして、すぐに吹き出した。
「ブエボッ…ゲボッ…」
「どうしたでゲス?」
「貴様…この水はニュードに汚染されてるじゃないか!!!」
「軍人ならニュード耐性があるから大丈夫だと思ったゲス。一般人なら死ねばいいと思ったでゲス」
「恐ろしすぎるわ!!糞ッ!!二度とこないからな!!」
そう怒鳴って、銀髪の男は乱暴に席を立ち、ドアを閉めた。
静まりかえった酒場に残されたのは無関係の男二人と酒場のマスター。
「厨二病死ねでゲス」
マスターの小さな呟きが、店内に妙によく響いた。
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