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「ったく…酷い目にあったな」
不機嫌そうに銀髪の男は廊下を歩く。
彼の名前はフォード・フレッドリィ。
フリーの傭兵である。
「もう、今日は寝よう」
フォードはそう呟くと、自分の部屋への道を歩きだした。
ここで説明しておくが、彼らが生活しているのは地下に建設された都市型シェルターの中である。
地上には…とある事件が原因で住むことができなくなってしまった。
特に誰とも出会うことなく、フォードは自分の部屋にたどり着く。
ぷしゅう、と何かが抜けたような音を立て、金属製の飾り気のない扉が開いた。
特に返事が帰ってくるわけでもないが、儀礼的にただいま、と小さな声で言い、部屋にはいる。
「やァ、おかえリ」
帰ってくるはずのない返事に少しフォードは警戒の色を示したが、自分の部屋のベッドに腰掛けている男を見ると、安心したような、あきれたような表情をした。
「ジミー…俺の部屋に勝手に入って何をしているんだ?」
「何、今日モ戦場から無事ニ帰ってきた友人と飲もウと思っただけサ」
そう言ってベッドに腰掛けている男、ジミー・フレデリックは、ベッドの下から緑色の酒瓶を取り出した。
「ワインか。ちょうどいい、飲みたいと思っていた。だが…」
フォードはジミーの口元をみる。
ジミーの口元には、ガスマスクのようなものが装着されている。
報酬目当てで軍の実験体になった結果、ジミーはニュードを吸わないと生きていけない体になっている。
そのため、日常生活の時はあのガスマスクのようなものでニュードを摂取しているのだ。
「お前はその口でどうやって飲むつもりなんだ?」
「ストローがあれバ問題ないサ。ちゃんトここニストローを持ってきてあル」
そう言って、ジミーはポケットからストローを取り出す。
「…ふむ。それでは」
フォードは食器棚から出してきたワイングラスにワインを注ぐ。
「「乾杯」」
チン、と澄んだ音がした。
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