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「中居さん?」
職員室を出て数歩歩いたか歩かない位の所で、背後から声をかけられた。
不意をつかれたその声に聞き覚えはなく、誰だろう?と振り向くと1人の女子が立っている。
セミロングのサラサラの黒髪に、綺麗な顔立ちのお姉さんタイプの人で、愛くるしい笑みを浮かべている。
「中居さんだよね?」
「そうですけど」
警戒心丸出しで悪いと思ったけど、最近のまぁちゃんのファンの仕打ちを考えたら仕方ないことだった。
でも彼女は笑顔を絶やすことなく、目元を垂らし口角を上げている。
愛くるしい笑みなのだが、あたしのアンテナはピピッと警戒音を発していた。
「初めまして。あたし松尾雪那。篠瀬くんと同じクラスなの」
「はぁ……」
だから何なんだろうと思うあたしは、心が狭いのだろうか?
「いきなり話しかけてごめんなさい。でもあの篠瀬くんが付き合い出したって聞いて、どうしても中居さんに会ってみたかったの」
「はぁ、そうなんですか」
ただのミーハーなファンか、と一礼して帰ろうと向きを変えると、松尾さんはあたしの隣りに並んで歩き出した。
「……?」
「黙ってて」
「えっ?」
松尾さんは一瞬真剣な顔をして、だけどすぐに笑顔に戻った。
そして、あの軍団の前を通り過ぎようとした時だった。
「篠瀬くんって人気者だから大変だろうけど、もし何か困ったことがあれば、すぐにあたしに言ってね!」
松尾さんは、例えば……とそこから更に声を大きくした。
「篠瀬くんのファンに嫌がらせを受けた……とかね」
そして軍団をギロリと睨んだ。
「松尾さん」
松尾さんの言葉に、軍団はばつが悪そうにして散り散りにその場を離れた。
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