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● 栞side story ●
「栞、急にバイト頼まれて出なきゃいけなくなったんだ。悪いが今日は知紘と帰ってくれ」
「そうなんだ?うん、わかった」
放課後、教室に現れたまぁちゃんはそれだけ言うと教室を出て行った。
もちろん教室の外には飽きずにまぁちゃんの追っかけをしている女の子達が待っている。
1人で出てきたまぁちゃんに「今日は1人?」と嬉しそうに声をかける様子は、疎ましい相手でも不思議と可愛く見えた。
「お兄バイトなんだ?でもあたし今日は健太くんとデートなんだぁ」
あたしとまぁちゃんのやり取りを隣りで見ていたちぃちゃんが残念そうに時計を見ている。
健太くんはちいちゃんの彼氏で他校の1年生。
中学3年の時に塾で知り合い、高校受験が終わり塾を辞める日に健太くんが告白したのだ。
「そっかぁ。いいよ、今日は1人で帰るから。ちいちゃんは健太くんとのデート楽しんできて」
「ごめんね」と謝るちいちゃんと校門まで一緒に行き、校門を出てから別れた。
人のというか、親友の恋路を邪魔する程野暮ではない。
放課後に1人で帰るのは久しぶりで、嬉しくもあり淋しくもある。
結局1人では行きたいと思う所もなく、雲一つない青天が恨めしかった。
こんな天気だから真っ直ぐ家に帰るのが勿体なく感じるのだ。
あたしは天気を怨みながらとぼとぼと坂を下りて行き、半分程下った所で「栞ちゃん」と呼び止められた。
その声は背後から聞こえ、本日2回目のことだった。
相手を何となく予測しながら振り返ると、あたしの思った通りの人が歩いて近付いている。
「松尾さん」
「今日は一人?」
あたしとまぁちゃんが別行動をするのは、そんなに珍しいことなのだろうか?
まぁちゃんもファンの子に聞かれてたし。
まぁちゃんが人気者だから仕方ないことかもしれないが、その質問はあたしまで監視をされてるようで、例え命の恩人(?)な松尾さんであっても嫌になる。
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