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「これ、落としましたよ」
男は沙璃華の右足元にブーツを置いた。
「落として悪かったわね」
男は「はい」と言って沙璃華のふくらはぎを掴んでブーツを履かせた。
「ちょっ、ブーツぐらい自分で履けるわよ」
沙璃華は右足を引っ込めた。
「あ、すみません、いつも息子の靴を履かせているもので、つい癖で」
また息子のせいにした。
「息子息子って、あなた何回息子って言うつもり?」
「すみません、うち父子家庭なんで」
「だから?全く意味わかんないんだけど。ミステリーなんだけど」
沙璃華の右足はポカポカに暖かい。
「暖ったかいよちくしょー」
まるで右足だけ桜の季節みたいだ。
「三色だんごが食べたいわ」
「三色だんご?」
まずい、またまた心の声が洩れた。
「もう、行きなさいよ」
沙璃華はまるで犬を追い払うような仕草をした。
きゃんきゃん
そう言ったか言わないか知らないが、男は頭をかきながら息子の方へ駆けていった。
犬男め。
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