人気作家

3/20
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「丸海先生、つい先日“実家を出て独立した”とおっしゃいましたが、なぜこんな山里へ…!?」 「うむ、内田氏。山里は良いぞ」 「いや、私が言っているのはですね…片道二時間は大変なのですよ。どうせ家を出るなら都心へ来て頂きたいと思うのですが…」 「何を言う。両親の住む実家は更にここから二時間はなれた片田舎。山里どころか村人が何人いるかといった僻地だ。 そこからこの山に来て出版社からも大分行き来し易いのだよ。」 「東京に来いぃぃぃぃぃ!!!」 ついには激昂する内田氏。 「まぁ待て。そう怒るでは無い。私がこの山里に住むのには大切な理由が有る。 森は良いぞ内田氏。執筆活動に当たる中で木々に触れ、鳥の声を聞き私はインスピュレーションを得るのだ。 都会のコンクリートと排ガスのただ中ではどうも気持ちが削がれてならん。」 「では、原稿は上がったのですか。 先生、せめてファックスぐらい使える様になって下さいよ…!!」 「内田君、何をそんなに焦っているんだ。 君が焦っても原稿は私の手元には無いよ。」 若いくせに落ち着いた物腰である。 子供をなだめる様な口調で若僧は続ける。 「私はこの前、 “陽之頃”を発表したばかりでは無いか。あれは何万部売れたかね?」 「確かに先生のデビュー作“陽之頃”は13万部のベストセラー。ですが次回作を望むファンの声は殺到しているんです! 先生…」 「落ち着きたまえよ、さっきも言った通りだ。 まだ原稿は書き上げていない。」 「先…てめぇっ!!」 思わず口調が荒くなった。内田編集は握り拳を作ったがあと一歩の所で、机に打ちつけるに留まった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!