5月

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「瑞穂!!」 夕君の叫び声  倒れそうになる私の視界に天井が映る  腰と頭に衝撃が走るのを覚悟していたのに… 訪れたのは柔らかい布と、がっしりした夕君の腕だった  「本当に…瑞穂は危なっかしい…」 掛け布団で覆うように包まれ抱き締められた  耳にかかるように、囁かれた夕君の言葉がくすぐったい  布団越しに力が籠もる  (まるで…後ろから抱き締められてるみたい…) 私の胸がドキンと鳴った  締め付けられたような、苦しさの感じるドキン  何かが目覚めたようなドキンという感覚  身体の中心から、沸き上がるように胸に何かが溢れた 「夕君…」 「………瑞穂………」 また私の名前を呼ぶ夕君の息が首筋にかかる  どうして抱き締められているのかも…どうして拒まないのかも思いつかないまま…長く感じる数秒が流れる  ドキンドキン!! 鼓動が大きくなる  更に夕君の腕に力が籠められた気がする  私の鼓動は早さを増し、布団越しでも夕君に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい高鳴っていた  「瑞穂………好…」  「夕弥?風呂上がったぞ!!」 客間の更に奥にあるお風呂からの廊下から夕君を呼ぶ朝君の声がした  「夕君…」 一瞬、ギュッと腕に力籠め抱き締めると腕をスッと緩めた  「……」 無言で離された腕から、掛け布団が落ちる  暖かかった背中がひんやりとした  布団越しにでも感じた夕君の腕の力強さ  襖を音も無く開け、出て行く夕君の背中に聞きたかった (瑞穂………す……の後は何て言おうとしたの?) 一人残された客間に膝を着いて脱力した  激しく鳴り止まない私の胸の鼓動は、何かしらの感情を目覚めさせた  .
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