5月

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私が腰を浮かしたことで、二人の距離は数センチ  びっくりして声も出せず、瞼を瞬かした  見つめられた目が反らされず、ずっと見てくる朝君  床に倒れた私に覆い被さるように跨っていた  まるで押し倒されたみたいに…  (ど、どうしよう…起き上がらないと!!) そう思った時  床についていた朝君の手が動いた  ほんの少し移動しただけ… そう…私の頬に… 「えっ…」 「………」 見下ろす朝君の目が少し伏せ気味に閉じかける  頬に添えられた手が…脈打つ  肌から伝わる朝君の脈が熱い  私の頬も、その熱にあてられ熱く、赤く上気し出す  今にも朝君の息がかかる距離  あと…3センチ…2センチ…  (えっ!?も、もしかして…) 今日は何回パニック状態になったことか  必死に目を瞑った 今だって十分パニック状態  (ど、どうしよう…朝君…もしかして…キ……) 「ミィ…」 頬にあてられた朝君の指が顎先に移動する  滑り落ちていく指に、背中がぞくぞくした  そこから全身に、なんとも言えない電流が駆け巡る 「ん…」 思わず声が漏れた  「ミィ…俺…………ミィのこと……」 パタン!  何かが閉じられた音  「…!?」 (………?朝君?何も…言わない?) そっと、そっと目を開ける  片目づつ  うっすらと  開ききった目で朝君を見ると、さっきまでの態勢のまま、何処かを見ていた  「ん?」 置かれた状況をスッ飛ばして朝君の視線を追った  その先には  「何してるの…?」 「……見れば解るだろ?キスしようとしてたんだよ!」 「ちょっ、と、朝君!!」 慌てて起き上がる  朝君の腕の壁を貫けるように床を這いずり離れた  「た、倒れただけだよ!!あ、遊んで暴れてたら倒れただけだから!!」 「なんで嘘つくんだよ…」 朝君が理解出来ないことを言った  「な、何言ってんの!?」 「………」 慌てる私を、静かに見つめる夕君  「朝君こそなんで嘘言うの?」 「………」 朝君が黙りこむ 「ちょっ、ちょっとちゃんと違うって言ってよ!!」 「………あぁあ!…白けちまったから寝るわ!!」 テーブルに手をつき、立ち上がった朝君は…私や、夕君を見ることなく…リビングを出て行った  静かになったリビングに夕君と二人、残された  「………」 夕君は何も言ってくれない  .
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