5月

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朝君がリビングを去ったすぐ、夕君は無言のまま冷蔵庫に手をかけ、中からミネラルウォーターを取出して直接飲んだ  私は何をどう切り出していいか思いつかず立ち尽くしていた  「………あ…あのね…夕君……」 たどたどしく話しかけてみた  ペットボトルから口を離し、俯く夕君  「………」 「あのね?……今のは……」 「……偶然…だって…言うの?」 「そ、そう!偶然なの!本当に転びそうになってそれで…」 「それで…あんなに顔が近くなるの?」 「えっ?………それは……」 (あれは…勝手に朝君が……) そう思っても言ってはいけない気がした  「あれは……」 「瑞穂は……瑞穂は誰とでも、あんなことするの?」 「し、しないよ!!だから、あれは朝君が…」 「朝弥が?」 「その…きっと…私をからかったんだと……」 「からかう?」 「うん…」 「じゃあ…」 そう言って夕君が、持っていたペットボトルをテーブルに置き、一歩、また一歩と私に近づく  (じゃあって…何?) 歩み近づく夕君が目の前まで来た  (何?な、なんなの?) 目の前の夕君との距離がすごく近い  どうしていいのか解らず慌てて俯いた  私の視線が夕君の右手を見た時…それはゆっくり上がり…私の頬に伸びて来た  ドキンと胸が鳴る  きっと、びっくりしたからドキンとしたのだ  なんてことない  夕君に限って変なこと… (でもさっき、客間で…抱き締められたような…) そのことを思い出してギュッと目を瞑った  (きっと、朝君と同じように私をからかったりするだけ…) 瞑った目の奥で、いろんなことを考えた  (これも冗談だよ!) 頬に伸びた手が耳の方に滑り、髪を掻き上げるようにすくう  こそばゆさと、恥ずかしさ、ドキンドキンと鳴る胸が苦しくて  (よしっ!先に一言言っちゃえば) そう思い付き、瞼を開けようとした時  唇に柔らかい感触が当たった  (えっ?) 感触が当たったすぐに、目を見開いた  すぐ離れた感触は  夕君の唇?  見開いた目の前には、まだ夕君の顔が数センチ先にあった 呆然とする  (な…なんで……) 「おやすみ…」 それだけ残して夕君はリビングを出て行ってしまった  .
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