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神木と呼ばれる大木のある森のふもと、一人の少女は祈りを捧げていた。
先代の森の巫女、少女の母が亡くなって一ヵ月。
少女が森の巫女となり、役目を果たしていた。
しかし、森の巫女の力といわれる全ての傷を癒す水『森水(しんすい)』を生み出すことが出来ずにいる。
「今日も…」
少女の目の前にある水亀は空のまま。
「私に力は無いの…」
森住む者が持つ森力については少女に右に出る者はいない。
ただ、森の巫女の力だけが引き出せないでいた。
「…資格がないというのかしら」
森が行う継承の儀の印はまだ出ていない。
先代が亡くなればすぐ現れるというものではないが、いつ現れるかは歴代の森の巫女しか知らない。
「エルダ…貴方がいないと駄目なの…」
10年以上前、森を出た少年の顔が頭に浮かぶ。
赤子の時に森に捨てられた少年。
今はもう青年だろうか、彼は森水を生み出す事ができた。
森の中だけだと笑って言っていたけれど、村の皆は森の慈悲だと…お母様は怒っていた森の巫女以外に森水を生み出す事に。
知っている、お母様がエルダを村から追い出したようなもの。
もしかしたら、森が怒っているのかも知れない。
エルダを追い出した事に…。
「会いたいな」
…エルダに会いたい。
「ルキア、無理はしてないか?」
後ろから声がする。
「クラウス…うん。大丈夫だよ」
振り返って笑ってみるが、クラウスの顔は悲しそうだった。
クラウス私の従兄で彼の両親がエルダを育てた。
エルダからしてみれば義理の兄にあたるかな。
「顔色が悪い、また食べないで…」
「エルダ元気かな?」
話題を変えてみる、この先は聞きたくないから。
「たぶん、元気にくらしているさ」
「たぶんじゃ、嫌」
「ルキア…」
「ねえ、クラウス」
「ん、なんだ?」
私は決めた。
森を出ようと…。
そして、時代は動きだす。
新たなる流れを受けて世界は変革するだろう。
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