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そう考えつつ、村田は5km以上歩いていた。
「はあ、大分歩いたな。疲れたわ。あん?」
村田は呆気にとられた。
目の前で鹿が倒れていたのである。
恐らく車に轢かれたのであろう。
力なく、痛々しい死体であった。
胴体には打撲の痕跡が見て取れる。
足が不自然にへし折れ、見るも無惨な状態であった。
(なんて人間は残酷なのだろうか。)
気づけば大粒の涙がひたひたと流れていた。
嗚咽を漏らす村田と鹿とを見比べ、道行く人は怪訝そうな顔をしている。
人間の心は確かに弱い。
少し突かれれば脆き心は直ぐに折れてしまう。
それとは裏腹にその根性は残酷で、悪そのものなのだ。
村田は涙を流しながらもっともっと重要で、自分が為してきた残酷な行為を思い出した。
「おれは、尊き動物たちを咀嚼しているじゃないか・・・。豚も牛も羊も魚も鶏も・・・。」
涙が噴水のように溢れ出す。今ここに横たわっている鹿はもちろん、我々残酷たる人間に食べられる動物たちは苦しく辛い一生を過ごすのだ。
食べられるためだけに生まれ、殺される。
なんと悲しい現実なのだろう。
何とも思わずそれを食べる我々人間の罪深さを村田は改めて気付いたのである。
「おい!なにをやってんだ可哀相じゃねぇか。鹿に何をした!」
泣き続ける村田を不審に思ったのだろう。
中年の太った男が悪態をついてきた。
恐らく、村田が虐待でもしたのかと思ったのであろう。
「おじさん、あなたは普段、肉を咀嚼していること、それを飲み込んで消化していること。忘れてませんか?」
「うるせぇ!」
中年の男はこの変人に構っていられなくなったのか、走って逃げていった。
村田は生涯でもっとも深く考えねばならぬことを、償わねばならぬことをここで思い出したのである。
「もしかして、自分の罪に気付かない。それが最大の罪なのではないか?」
(そんな罪深いおれ達をあのキリストは十字架の上で赦してくれたのだ。)
人間のすべての罪を背負い、惨めにも死んでいったイエスを村田は想った。
「主よ、どうか我々の罪を赦し、全世界に栄光を、平安をお与えください」
祈り終わったころ、すっかり辺りは暗くなっていた。
ただ明るい月が彼の真上を動いていた。
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