序章 とある日の訓練

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「五!」  盾を構えた少女が叫ぶと、一番右側から発射された五人目の銃弾の前に立ち塞がり、ボンと鈍い音を立てながら、その手の盾で弾を弾き飛ばした。 『左に飛んで下さい』  その隙に、五人目の銃弾が来なくなった左側へとワンステップ。  続く第四射も少女の盾を使って避けると、左から二番目の兵士の左肩へ向かって、左腕の剣を一気に振り下ろす。 『前に一歩、左からの射撃です』  新たに脳裏に浮かぶ言葉と声。緊急時のそれがコンマ一秒で僕に叩き付けられた。  一歩前に踏み出して左へ向き直ると、服の肩口が横一直線にちぎれ飛ぶ。 『霜……』 「続けて!」 『了解』  恐怖心を押し殺して、兵士が構える銃口に向かって強く足を踏み出した。木を遮蔽物にして、一人切り捨てる。 『後ろっ!』  最後、振り向き様に右手の剣で、背後の兵士を切り上げて…… 『mission、complete。残存兵は見当たりません。やりましたね』  嬉しそうに、緊張感の無くなったアルトの高さの声が、頭の中に響いた。 『新着メールです。四組、青山、篠岡。第三小隊との演習終了。直ちに準備室に戻る様に、だそうです』 「……了解、お疲れ様」 『はい! お疲れ様』  何とか、今日の『訓練』も無事終わりだな。  そっと両手を下ろして目を開ける。飛び込んでくる光りに目を細めながら、僕はその場で大の字に寝転んだ。
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