二章 ハジマリ

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 何で自分だけ? そう思ったことは無いだろうか。様々な理不尽や偶然が自分の身に起きるなんて事は、たまには有る事だろう。  十五年間しか生きていない僕にも何回か有る。何回? いや、ちょっと多いかも知れないけど。  定期券が反応しない。自販機で飲み物を買うと、目的のものとはかけ離れた物が出てくる……なんて事はザラだ。  今では耐性も着いたし、これくらいはなんとも無い。大抵の事なら、まぁ僕だしな、と軽く流せる自信がある。  だけど――今回は流石の僕でも想定外だった。  四月の今日は暖かく、心まで浮き立つような春独特の空気が広がっていて。  海から学園へと続く道は、両側に桜が彩られ、撫でる様な風に数枚、その威厳の有る花びらを宙に踊らせている。  ジパングの春は素晴らしいと、この国に住む人達はみんな言うけれど、それは僕も同感だ。  ――それが、ゆっくりと眺められる物なら! 「はぁ……はぁ……」  一面ピンク色の素晴らしい景色の中、場違いな程の汗が、僕の額から滲んでいるのを感じる。拭いたいけど、今は一分一秒が惜くて、気にせずそのまま僕はひた走る。  入学式のために少し短く切った前髪がおでこに張り付いたみたいで、ベタベタしてなんだか気持ちが悪い。  初日だっていうのに、こんなに走ったら制服も汚れちゃうよ。
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