チョマ

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人の体も心も、安心すると、正直になるのか、あたしは全身の傷の痛みを感じた。 フルーツパーラーは、フジムラ果物店の裏にある。両方の店の奥に、フジムラ親子の住む家があり、一つの家を挟んだ形になる。 家は二階建てで、一階に茶の間と台所、ふろ、トイレがあり、二階に二部屋、フジムラさんとお母さんの部屋があった。けれど、あまりそこは使われることがなく、いつも彼らは店か、一階の茶の間にいた。 そして、たくさんの猫がいた。 猫は、不思議なことに、双方の店に顔を出すことがなかった。それは、フジムラ親子のポリシーに基づくのもで、猫たちはよく理解していた。 ただ一匹をのぞいては、 「こら!チョマ。」   カウンターでフジムラさんのお母さんと、話していると、 後ろから、突然、声がした。 カウンターの奥にある扉がひらいていて、そこから、かすかなといっていいほどの、小さな声が聞こえた。 「でてきたらあかんぞって、いってるだろ。」 それが、チョマとの出会いだった。 「猫・・・」 「嫌いな人もいるでしょう。それに、ここは食べ物を扱うからね。」 「人も猫も、いやな気分になるのは、いやだからな。」 二人は静かな口調でそういった。チョマはすごすごと、扉のむこうへ。 とおもいきや、子猫特有の何ともいえない声で鳴くと、店へ入ってきた。 「こら!」 というフジムラさんの声。チョマは一瞬びくうっとし、しかし、まっすぐに私の足もとに、かけてきた。 ニュウともミュウともつかない声で鳴き続け、あたしのデニムの裾をカリカリとやっていたかと、思うと登ろうとしはじめた。 「あらら・・・?」 フジムラさんはそういい。 「ちょっちゃん。おねえちゃんがきにいったの?」 とお母さんがいった。 チョマはまだ目の色がブルーがかっていた。あたしはチョマという子猫を、胸に抱き上げた。 「ちょうどいいわ。うちでちょっと。その子のあいてしてやって」 お母さんがいうと、店の扉が開いて、お客さんがはいってきた。 あたしは、フジムラさんに促され、チョマを抱いて家に入った。
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