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チョマは、必死であたしにしがみついてきた。ぐるぐるとのどをならした。細い爪で容赦なく服に引っかかりながら、あたしの顔に鼻を寄せた。手をひっかかれた。指を出すと、ちゅっちゅっと吸った。
フジムラさんは店で。お客さんの相手をしている。午後の買い物の時間になっていた。チョマと茶の間でじゃれていると、二階から黒猫が降りてきて、その横で毛づくろいを始めた。茶ダンスのうえに、茶虎の猫がいた。
「あーお」
と声がして、白黒タキシードの猫がやはり二階から、やってきた。
皆それぞれに、くつろいでいる。あたしも彼らには同じもののようだ。と思った。
チョマはすっかりあたしの腕をまくらにして、安らかな顔をして、眠っていた。体がズキズキと痛んで、あたしは横になった。
あたしは、いつのまにか、布団の中にいた。いったい何時間眠っていたのか。二階の部屋だった。猫の姿も、フジムラさんもお母さんの気配もなかった。あたしはあたしの形で布団の上に沈み込んでいくようだった。体をうごかすことができない。金縛りのように。
あたしは、逃げ延びたのか。と考えていた。あたしは、何故、逃げなかったのかとも。怖かったし、殺されるとも思ったのに。そして、どうやって逃げたのかと。
あたしは、夫を放り出してしまった、と思って、少し無力さを感じた。
そして、ゆっくり体をおこした。頭の芯がジンと重かった。
突然、ニアと声がした。
ととととととっ
チョマだった。
チョマは確かに言った。ように、おもう。
おかえり。
あたしは、さまよっていた。体はここにあった。痛めつけられても、あたしが夫から逃げなかったのは、あたしの体はあっても、心・・・?もっと、何か。違う、魂というものがどういうものか、あたしは知らないけれど、何かそういうの、そういうものが、あたしから抜け出ていたようにおもう。
あたしはチョマを、抱き上げた。胸に、寄せると、目を閉じて心地よさそうに、すり寄る。まるで、帰ってきたかのように。
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