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公園。ぶらんこが、揺れている。あたしは、雑誌と赤ワインの入った袋を、さげて、歩いていた。
公園を挟んだ向こう側の道で、若い男女の学生が、なにやらキャッキャと、口論している。
若いって、素晴らしい。口論さえ、生き生きと、見える。深刻でないのだ。すぐ忘れて笑えるような、
そんな口げんかに思えた。
いずれにしろ、あたしには関係ない。
あたしには、口げんかに費やす時間はない。
暇じゃない。
あたしは、足を速める。急ぐ。急いで、どこへ行くのだろう。急いで、何になる。
けれど、歩く。やがて小走りに。
佐知、俺のこと、好きか。
あの人はいつも、確かめた。愛情を欲しがって。あたしを殴った後は、きまって。
優しくされて、怯えさせて、また、やさしくして、を繰り返せば、おんなは服従するものと、本能で知っていたのだろう。
ただ、度が過ぎた。
あたしは、逃げ出した。
だから、これから、なるべく遠くへ、行かねばならない。
あたしは、駅に着く。切符を買って、行き当たりばったりに、列車に、飛び乗った。
あたしには、いつだって、これから、しかなかったのだ。と、瞬間、おもった。列車がホームを滑り出し、
あたしは、その場に、倒れる。
赤ワインの瓶が割れる。あたしは、その音を、きかない。
大丈夫ですか!
という、声も。
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