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助けられたものの・・・ひどい熱を出して
うわ言のように彼女は繰り返した・・
「彼に会いました
やっと彼に会えました・・
左の片方の瞳を戦で失っていたけれど
彼は私をあの樹の下で
その腕で抱きしめてくれたのです」
「雪が
まるで花ビラが舞うように
綺麗でした・・。」
嬉し気に語る
それから
それから
一月も立たないクリスマスが近くある日だった
長い戦から
遠い土地から黒髪の青年が帰還した
熱い大地の下
日焼けして沢山の傷を身体に刻み
彼は彼女の待つ故郷に帰ってきたのだ
もう一つ
付け加えるなら
武勲、名誉、ちょっとした富、財産と
それに何より大事な命と引き換えに
その左の片目を戦地に置いてきたのだった・・
・・・
彼は全てを受け入れて
愛する娘を
その腕に抱きしめた・・
彼女にはわずかに数年の時間しか残されては
いなかったが
幸せな幸せな時間を過ごしたのだ
小さな忘れ形見の子供が残されて
それからその子供は
他の子供らに混ざり
子供達は何ごともなく
楽し気に遊び、あの樹の下で過ごしている
そうして樹の下で
恋人達は互いに
愛の言葉を囁きあう
繰り返し
繰り返し
あの樹の下で
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