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犬井刑事がワンニャン署に配属されて早2週間が経った。
この2週間で捜査デスクの刑事達とはそこそこ仲良く上手くやれているし、署長の日辻氏にも気に入られているようだ。
そんな円満な刑事デビューをした犬井だったが、やはり気にかかるのが猫玉川のことである。
この2週間、猫玉川を見てきたが、事件を取り扱う会議でも、ダルそうにアクビをしているし、相変わらず毎日二日酔いで出勤してくる。たまにフラりといなくなるので期待を込めて尾行してみたことがあるが、パチンコ屋へ入る姿を目撃するに終わった。
(やるせない…)
先輩刑事にそれとなく尋ねてみるが、皆一様に口を濁し、最後には諦めろ、とだけ言うのであった。
しかし犬井刑事の直轄の上司は猫玉川であった。犬井刑事は若干の頼りなさを感じつつも、猫玉川の後ろに付いて回るしかなかった。
そんななかで、ワンニャン署の管轄区域である東京都ワンニャン区内で連続殺人事件が起きた。連日新聞テレビを賑わせたことで情報も混乱をきたし、事件はワンニャン署から本庁の管轄へ移った。
そこで捜査の先頭に立ったのが本庁のエリート警視・三毛野礼央(29)であった。
艶々のシルバーの毛並みに高そうなスーツ、そして端正な顔立ちでスタイルも良い。
絵に描いたような美雄猫である。
彼は見事な采配で被疑者を確保するに至った。さすが優秀な動物は違うな~と思いながら猫玉川の後ろを付いていく犬井刑事であったが、その猫玉川と三毛野が一度だけ廊下ですれ違うことがあった。
「はっ…三毛野警視!」
慌てて敬礼する犬井刑事のことなど全く目に入らない様子で三毛野があからさまに猫玉川を睨んで立ち止まった。
猫玉川はしまったというような顔をしてチラリと三毛野を見やる。
「…やる気の無い様子は相変わらずのようだな」
「先輩に対する口のききかたじゃねえな、三毛野警視殿」
「あなたを先輩だと思っていた私はもういない」
「へいへい、じゃあな。今日のお手並みも見事なもんでしたよ。行くぞ、犬井」
やたらと噛み付く三毛野についていけない、とばかりに猫玉川は犬井刑事を呼んで歩き出した。
「は、はいっ…」
それに付いて行きながら、三毛野をチラリと覗くと、先程までの睨むような視線は消え、どこか悲しそうな表情でたたずむ彼が見えたのであった。
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