プロローグ

2/11
1099人が本棚に入れています
本棚に追加
/413ページ
小高い崖に、茶髪の男が立っている。 心地よい風が頬を撫で、髪をかきあげる。 無精髭を少々生やし体格もよい。 外見からして年齢はせいぜい三十代後半から四十代前半だろう。 「今日はいい風が吹く」 心地よい風に思わず一言。 少し頬を緩めた男は下を向き、広大な荒野を眺める。 赤褐色の大地を覆う漆黒の影。 まるで黒い津波が押し寄せて来ているかの様。 ――そう。 あれは軍隊だ。 今まさに俺達を、この世界を滅ぼさんとする漆黒の軍勢。 「……じき、これも血生臭い風に変わる」 風を感じながら顔をしかめ一言呟く。 ふと後ろを振り向くと、なにやら老人がとたとた走ってくる。 どこか愛嬌のあるその姿に、思わず男は微笑んだ。 「アトス。 お前、ホント走り方面白れぇな」 アトスと呼ばれた老人は怒るでも悲しむでもなく、ただゼェゼェと苦しんでいる。 「……ふぅ。 仕方あるまい、ワシは頭脳派なんでな。 そんなことより、ゲイル。 出陣の準備が整ったぞ」 しばし漆黒の軍勢を眺めた後、ゲイルはああと小さく呟いた。
/413ページ

最初のコメントを投稿しよう!