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小高い崖に、茶髪の男が立っている。
心地よい風が頬を撫で、髪をかきあげる。
無精髭を少々生やし体格もよい。
外見からして年齢はせいぜい三十代後半から四十代前半だろう。
「今日はいい風が吹く」
心地よい風に思わず一言。
少し頬を緩めた男は下を向き、広大な荒野を眺める。
赤褐色の大地を覆う漆黒の影。
まるで黒い津波が押し寄せて来ているかの様。
――そう。
あれは軍隊だ。
今まさに俺達を、この世界を滅ぼさんとする漆黒の軍勢。
「……じき、これも血生臭い風に変わる」
風を感じながら顔をしかめ一言呟く。
ふと後ろを振り向くと、なにやら老人がとたとた走ってくる。
どこか愛嬌のあるその姿に、思わず男は微笑んだ。
「アトス。
お前、ホント走り方面白れぇな」
アトスと呼ばれた老人は怒るでも悲しむでもなく、ただゼェゼェと苦しんでいる。
「……ふぅ。
仕方あるまい、ワシは頭脳派なんでな。
そんなことより、ゲイル。
出陣の準備が整ったぞ」
しばし漆黒の軍勢を眺めた後、ゲイルはああと小さく呟いた。
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