第一幕:湊の春は今日も空回り

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「……お、お兄ちゃん?」 「おう梓、弁当持ってきたぞ」 そしてクラス中に(廊下にもはみ出て)女の子達の悲鳴がした。 こんな美男美女の兄妹が居るワケない……じゃなくて 私は梓に詰め寄った。 「梓っ!!あんた兄が居るなんて初耳なんですけど!」 「そうよそうよ!」 いつの間にか戻ってきた千尋も梓に詰め寄る。 梓は改めて紹介した。 「あー、私のお兄ちゃんの佐久間祐です」 「……」 梓のお兄さんは無言で私達を見ていた(沈黙が怖いっ!!) そして梓に弁当を渡した。 「母さんが持ってけってさ」 「あれ、お兄ちゃんのは?」 「……購買で適当に買う」 「栄養片寄っちゃうじゃん!」 私と千尋からすれば仲が良い普通の兄妹だけど、クラスの女の子達は梓に対してライバル視してるみたい。 ライバル視したって美男美女に入る隙なんてないのにね。 ふと千尋が見つめていた秀明くんを見ると教室を出ていく所だった。 一瞬……梓のお兄さんの方を見て………………確かに、睨んでいた。 知り合い? 千尋は幸いにも梓とお兄さんの会話を聞いてたから秀明くんは見てないみたい。 秀明くんはそのまま教室を出てしまった。 「ねぇ優ちゃんってば!!」 「えっ!?なに?」 いきなり梓に声を掛けられてビックリした。 梓は聞いてなかった私にもう一度言った。 「だからね、お兄ちゃんも一緒にお昼食べていい?」 「…え、あぁ……良いんじゃない?」 「だから俺は別の奴とな」 「良いじゃん、お兄ちゃん友達いないくせに♪」 (梓が湊みたいな事を言っている…) お兄さんはなんか落ち込んでいた。 ……梓、本当にお兄さんお友達と約束があったんじゃ… そして、またもや廊下が騒がしかった。 今度は別の意味で…… 何やらマンモスのようなだんだん近付く足音にキャーキャー騒ぐ女の子達(けして黄色い歓声ではない) そして教室の入り口に突っ立ってたお兄さんを巻き込みタックルしてきて、教室の床にスライディング。 「ぐふっ」 お兄さん下敷きになった。 ……なんか可哀想。 お兄さんの上に乗ってるのはタックルの張本人。 そんな彼は明るい声で言った。 「祐っ!!焼きそばパンとコロッケパンどっちが良い?」 「お前は普通に聞けねーのかよ!!」
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