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「はい、どちらさ……ぁ」
湊の姿を見てただ事ではないと思ったメイドは慌てた。
「いっ、今すぐ真矢様を…」
「……待て」
俺は今にも駆け出しそうなメイドの腕を掴み止めさせた。
メイドの顔が面白い事(真っ赤)になってるが、そんなの関係ない。
村雨を呼んでる間に湊になにかあっては困る。
「…村雨はいい、先に清めの儀式を教えてくれ」
「………えっ、あ…はい、それではその方をこちらに…」
ボーッとしていたらしいメイドがハッとして俺に両腕を伸ばしたが俺は一歩後ずさった。
それにメイドは驚いた感じだった。
「…あ、あの」
「手順を教えてくれるだけで良い、早く」
「……え、と…はい」
ためらいがちなメイドだったが観念して教えた。
―☆―
清めの儀式の手順は、まず着ている服を脱ぎ、白い着物一枚を着させる。
湊の服を脱がすと、服で隠れてて見えなかった痛々しい傷があちこちにあった。
俺は顔をしかめたが、湊から目を逸らさなかった。
ぐったりした湊に着物を着させて、お姫様だっこで清めの儀式の場所である、本邸の中にある虹色に輝く湖に湊を連れてきた。
まだ春で冷たい筈の湖は心地よい温度だった。
湖に湊を抱きしめながら入れると、顔に水が掛かったのか湊が声を出した。
「……んっ」
「湊、大丈夫?」
俺が声を掛けると湊はうっすらと目を開けた。
「…湊、俺が分かる?」
「………しゅ、いち…」
俺の名前を言ってくれた事に安堵したが、湊はかすれた声を出した。
……湊はきっと凄い抵抗して泣き叫んでいたんだろう。
少し腫れてる目に口付けた。
「……湊、ごめん……助けてやれなくて…」
「…………秀一は悪くねーよ、俺が雪さんの言いつけを守らず一人になったから…」
湊は優しい……だけど、いっそ責めてくれたら楽だった。
……辛いくせに、無理に笑う湊を見てると、心が痛い。
そして湊は自分が湖の中に居る事に気付いた。
「……此処何処だ?風呂?」
「………本邸の中にある湖だよ、湊を清めなきゃならないから…」
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