1人が本棚に入れています
本棚に追加
~Ⅰ~
千葉県房総半島に変人のお金持ちが住んでいる、という噂は以前から何度か聞いたことがあった。
今思えば、なんとなくその主人が若い女性という話しも聞いたような気がするが、残念ながら物覚えはあまりいい方ではないぼくはそれをすぐに忘れてしまった。
覚えている限りでは、
住んでいるのは資産家の人。
敷地は東京ドーム11個分。
遊園地やら水族館やら博物館、植物園もあるそうだ。
そして、そんな広大な土地に入れるのは主人が招待した人のみ、招待基準は──
――変人。
世間一般に変人と呼ばれる人々しか招待しないということから、その主人もまた変人だ、という事は覚えてる。
正直ぼくはこの話にそこまで興味があったわけではなかったので、それを話半分に聞いていたのだが、
「……まさかぼくが招待されるとはね」
目の前には西洋風の館。
噂程ではないが、それでも館だけで東京ドーム1個分以上の広さはあるんじゃないだろうか。
「……まあ東京ドームなんか見たことないんだけど」
そんな館の周りにはぐるっと掘がある。
覗き込むと底が見えないくらい深い。
「んー」
試しに近くにあった石を落としてみた。
…………。
………。
……。
いくら待っても、石が底に着いた音が聞こえなかった。
「……おいおい」
いくらなんでも深すぎるだろ…。
ぼくは改めて館の正面に立ち、左右を見渡してみる。
館と外を繋ぐ橋は、無い。
さてどうするかと悩む。
橋が無いんじゃ入れないし。
帰ろうか、とも本気で考えたが、左側から声がしたので一旦思考を切り替え声のした方を見てみると、白のワンピース姿の小柄な少女が目に入ってきた。
腰まで伸ばしている黒髪を振り乱しながら今回の同行者である少女──唯川きららがこっちに向かって全力で走ってきていた。
「にいちゃーんっ!!」
最初のコメントを投稿しよう!