第 壱 話

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とうとう家の前まで来たとき、私の思いは完全に恐怖と絶望に呑まれていた。 忌中と書かれた貼り紙を見つめたまま、門へ続く3段の階段に足をかけることすら出来なかった。 「大丈夫か」 「・・・大丈夫」 とは言うものの、私の足はガクガクと震え、立っているのがやっとな状態だった。 「無理をするな」 「無理なんか・・・」 「皆、現実を目の当たりにするのが怖くて立ちすくむ。お前だけじゃない」 すっかり私の心はタケルに見透かされていた。 今度は触れられてなんていない。 まるで幾人もの死者がこうして生家に帰る姿を見送ってきたのような、少し寂しい声だった。
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