俺は俺。でもここは何処?

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「人を見掛けで判断しない方が良いですよ?」  この女性、警戒心が無さ過ぎる。  いくら俺が牢屋に入っているとは言え、「もしも」の事が無いとは言い切れないのに。 「お腹空いてない?」 「話聞いてますか?」  マイペースにも程がある。  思わず突っ込みを入れてしまった。 「貴方の話はちゃんと聞いてるよ。でも、それは大丈夫だから」 「『大丈夫』と自分で言う人程、本当は大丈夫じゃ無いんですよ」  淡々と反論を繰り返す俺。 「ほら、やっぱり」  それでも女性は笑顔を崩さず、そう言った。 「何がですか?」  意味が理解出来なかった。 「貴方は危なくなんか無い。本当に警戒を促してるから」 「………」  何だろうか、この感じは。  この人は、良く分からない。 「それは置いといて、お腹空いてない?」 「………正直、かなり」  俺は素直に答えてみた。 「じゃ、ここから出よっか」  ガキン、と。  格子の扉を固定していた錠が、音を鳴らした。 「はい?」  ワンテンポ遅れた、俺の声。 「ほら、こっちこっち」  開かれた扉の前で、女性は手招きをしている。 「いやいや」  どう考えても駄目だろう。  仮に彼女と共にここから出て、勘違いでもされたらどうなる?  俺が彼女を人質に取っている様にしか見えないだろう。  そうで無くとも、俺は牢屋に入っている筈なんだ。  空になった牢屋を先に見られた場合、言い訳なんか聞いてくれないぞ。 「だから、大丈夫だって。ね?」  女性は手招きを止め、こちらに手を伸ばしてきた。  それでも俺は、動こうとはしない。  ここで動くのは愚策。 「ハァ……。随分と慎重なんだね、貴方は」  女性は諦めたのか、俺に向けて伸ばした手を降ろす。 「仕方無い」  諦めた、と思ったのは大間違い。  牢屋の中にまで入ってきた。  そして俺の左手首を掴む。  次の瞬間、俺は別の場所に立っていた。
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