俺は俺。でもここは何処?

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「味はどう?」  左隣から聞こえてくる、楽しげな声。 「空腹だった事を差し引いても、凄く美味しいですよ」  正直に正直に、質問に答えた。 「それは良かった。足りなかったら言ってね。遠慮なんてしなくて良いから」  この人は、優しい人なんだろう。  それも、飛び切り。 「そんなに急がなくても良いぞ。話はゆっくりと聞いてやるから」  対面に座るのは、大男。  左隣に座るこの女性の父親。  母親は今の所、見掛けていない。  既に居ないのかも知れない。  けれどそんな事は、今はどうでも良い。  早く食事を終えて、話をしなければ。 「箸の使い方、上手なんだね。男の人であんなに綺麗に使えるのって、お父さん以外で私初めて見たよ」  食事を終えて、空の食器が並ぶ食卓。 「俺の両親が、そういうのに厳しい人達で」  淡々と、言葉を並べる。 「それより、本題に入らせて頂きます」 「待った」  出鼻を挫かれた。 「お互いの名前くらい、知ってから話そう。な?」  出鼻を挫いた男性は、諭す様に言う。  少し落ち着けと、そういう事だろうか。 「……結城宗助(ユウキ ソウスケ)と、言います」  一拍置いて、俺は答えた。 「結城、宗助……か。俺の名前は市村昭久(イチムラ アキヒサ)だ」  完全な和名、だな。  「ヤマト族」の「ヤマト」と言うのは、「大和」の事だと思って良いのだろうか。 「私は市村桜(イチムラ サクラ)。宜しくね」  何をどう宜しくするのか分からないが、まあ良いか。 「………」  さて、どう話せば良いのか。 「ヨ、ロ、シ、ク、ネ?」  返答しなかったのが余程気に入らなかったのか、市村桜さんは声に若干の怒気を含ませてきた。 「……宜しく、お願いします」  話が、中々進まない。
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